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英国ロイヤル・コレクションは、西洋のコレクションの中でも、非常に優れた日本美術作品を所蔵しています。それぞれの 来歴は他に類がないほど独特であり、またその品質も一際優れています。このたび4月に公開の展覧会「Japan: Courts and Culture」はコレクションの中から特に注目すべき作品を一同に集めて展示したもので、本館において初の試みとなります。
本展覧会は、イングランド王ジェームズ1 世から現在の女王エリザベス2 世までの350 年以上に及ぶ日英外交、両国の芸術・文化交流を物語っています。日英皇室、王室関係に特化した初の展示会となる本展覧会では、鎧、武具、磁器、漆器、木版画、扇子や刺繍屏風など稀少な作品を紹介致します。
1613 年、東インド会社の貿易船の日本への来港が、日英の初めての直接的な交流となりました。ジョン・セーリス船長は国王ジェームズ1 世からの命を受け、当時皇室に代わり日本を統治していた将軍、徳川家康宛の親書と贈呈品を持って来日しました。その後セーリスは、日本での居住と貿易の許可を得て、国王への贈呈品と共にイギリスに戻りました。日本から持ち帰った物の中には、壮大な武士の甲冑も含まれており、それは英国内に渡った最初の物であり、また、ロイヤル・コレクションに現在残るヨーロッパ美術以外の作品の中でも最初期に登録された物です。
この日英の最初の直接的な交流は短いものでした。1630 年代から約220 年間、日本は外国からの影響を抑えるため、西洋に門戸を閉じました。この間、西洋諸国の中で唯 一オランダが、日本との直接交易を許されていました。当時のヨーロッパでは磁器や 漆器の製造方法がまだ知られておらず、エキゾチックな東アジア製品は高い需要がありました。
英国王室は、輸出用に特別に作られた 漆器、磁器、織物など、それぞれ最高品質の作品を率先して収集しました。17 世紀、女王メアリー2 世は、住まいであったケンジントン宮殿とハンプトン・コート宮殿に日本の磁器を装飾品として持ち込みました。
18世紀には、国王ジョージ2世の配偶者であったキャロライン王妃が漆器の素晴らしいコレクションを保有しました。それから100年後、国王ジョージ4世は、ロンドンのカールトン・ハウスとブライトンのロイヤル・パビリオンの装飾に日本の磁器を取り入れ、より豪華に見せることを試みています。ジョージ4世によって収集された物の多くは、ヨーロッパの精巧な金銅の装飾を磁器に組み合わせることで、シンプルな壺をポプリ入れにしたり、動物の陶器を香炉にしたりするなどして、磁器の新しい使い方を見出していました。
1850年代になり、日本との交易が西洋に開かれたことによって、商品が自由に行き交うようになり、外交や政治的な結びつきが回復しました。ヨーロッパ王室の中で最初に日本を訪れたのは、女王ヴィクトリアの次男、アルフレード王子(エディンバラ公)で、1869年のことでした。王子は皇居で明治天皇に拝謁し、王子には武士の甲冑が贈られました。兜は1537年に作られたものでした。母である女王宛への手紙に王子は「この国についてあなたに報告しようとするのですが、言葉がみつかりません。すべてが新しく、風変わりで、困惑させられています」と記しています。
英国王室から次に日本を訪れたのは、女王ヴィクトリアの孫、後に国王ジョージ5世となるジョージ王子と、その兄 アルバート・ヴィクター王子です。当時10代であった王子達は、戦艦バカンテ号に海軍士官候補生として乗船し、1881年に日本への上陸許可を得て、明治天皇・皇后に拝謁しました。二人は、父であるアルバート・エドワード皇太子に贈られたティーポットとカップなど家族へのお土産と、国同士の交流を深めるための贈呈品を持ち帰りました。彼らの家庭教師が纏めた公式日記によると、王子達は日本滞在中に腕に入れ墨を入れました。アルバート・ヴィクター王子はコウノトリを、ジョージ王子は西と東を意味する組み合わせである虎と龍を入れたと記されてあります。
20世紀初頭になると、太平洋情勢におけるイギリス、日本両国の利権を確保するための軍事同盟として日英同盟が締結されました。この時期は芸術面での交流も進みました。最も重要な文化イベントは、1910年にロンドンで行われた日英博覧会で、日本工芸のデモンストレーション、音楽、スポーツやエンターテイメントが披露されました。東アジアの芸術品を熱心に収集していた国王ジョージ5世の配偶者メアリー王妃を含む、800万人以上の来場者が博覧会に訪れました。
英国王室と日本皇室 の関係は、相互の親善訪問や、即位式や戴冠式など記念式典への出席、そして贈呈品の交換により深まりを続けました。1902年、小松宮彰仁親王は明治天皇の名代として国王エドワード7世の戴冠式に出席しました。その際、日本の四季を刺繍で描いた屏風を国王に贈っています。メアリー王妃は、1911年、最も熟練した漆芸家の一人である赤塚自得作の、天皇家の菊花紋の入った小箪笥を、戴冠祝いの品として受け取っています。
20紀初頭、この友好関係は第二次世界大戦により大きな影響を受けましたが、1952年の女王エリザベス2世即位以降、新たな日英協力が築かれています。1953年の戴冠式の際には、両国間で戦後初となる贈呈品が昭和天皇から贈られました。それは、著名な漆芸家で、人間国宝の前身に当たる帝室技芸員に任命された白山松哉作の「鷺蒔絵手箱」でした。その70年後、国を挙げて「プラチナ・ジュビリー」を祝う2022年、クイーンズ・ギャラリーへの来館者は、この優美な贈物を間近で見ることができ、両国の友好関係が特別で長きに亘ことを実感できると思います。
本展覧会のレイチェル・ピート学芸員は、「イギリス王室が数世紀に渡って称賛し、大切に飾ってきた日本の素晴らしい作品を見るという希少な機会を設けることができ嬉しく思います。英国の趣向に大いなる影響を与え、長きに亘る二国間関係の形成を手助けした希少な素材と巧みな技法を直に体感いただける機会です。今日までに及ぶイギリスと日本の王室・皇室と文化を繋ぐ慣習、儀礼、芸術の世界を見つけていただきたいです。」と述べました。
「Japan: Courts and Culture」バッキンガム宮殿クイーンズ・ギャラリーで開催。
会期:2022年4月8日から2023年3月12日
来場者情報とバッキンガム宮殿クイーンズ・ギャラリーのチケットは
電話 +44 (0)30 3123 7301
クイーンズ・ギャラリーは、木曜日~月曜日まで開館。休館日:火曜及び水曜。